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びわこのみず

琵琶湖の水

中谷 宇吉郎

「文藝春秋」1947(昭和22)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,773 字 · 20 页

青空文庫

それに農具といっても七家族全体に鍬一梃と鎌一本だけしか配給してもらえないので、どうにも先の見込みが立てられないものですから」ということであった。

北海道の百姓にも手のつかぬ熊笹の荒地を、東京の人間に素手で開墾させようというのは無理である。生爪を全部はがしても、三尺四方とは開墾出来まい。幸い村役場の人に知合いがあったので、きいてみたら「道庁から何の予告も準備もなく、入植者を送って来るので、村としては気の毒だが、何とも出来ない事情だ」と教えてくれた。そしてもう何カ月とかの間我慢していると、補助金が下るという話で、皆がそれを待っていた。結局ここも一家族残して全部が引き揚げてしまった。

こういう例は、少し極端な例かもしれないし、それに少し誇張があったのかもしれないが、大体昨年の「綜合開発」はこの程度に終ったところが相当あるようである。蒸発量が三十万倍という話は、笑い話ばかりではないらしい。われわれ勤労者の税金が、こういうふうに蒸発してしまっては、あまり有難くない。もっともこういう開墾の他に、われわれの知らない素晴らしい開発事業が、極秘のうちに進行しているのなら、結構な話である。