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せいあらば
生あらば
豊島 与志雄
「文章世界」1917(大正6)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,046 字 · 47 页
手紙には殆んど脅迫に近い文句が並べてあった。それから八日の晩に来ることが知らしてあった。その時までに一方の方だけ是非都合するように、もし出来なければ、元金だけ、もしくはその半金でもいいとしてあった。然しその時何等の返答なきに於ては、俸給及び家宅の差押をなす旨が言明してあった。五日から更に八日まで三日の猶予を与うるは異常なる親切だそうであった。
そしてそれは実際壮助にとっては異常なる幸運だと感じられた。彼は古谷が既に差押の手続に及んだもの、もしくはそれを決心したものと信じていた。
「兎に角至急いくらか金を拵えなければならない。」壮助の心は其処に落ちていった。
壮助は差押を受けることが、自分自身及び自分の生命に直接何等の関係もないことを感じた。然し乍らそれは直ちに自分のパンに関係する問題なることを思った。狭量なる教育社会と狭量なる世間とが彼の前に据えられた。其処に於ては凡てがきちんと、表面上余りにきちんと整っていた。そしてその整然たる網の目の下には大きい闇黒があった。一度その淵に陥ったら、再び浮び上ることは出来ないに違いなかった。彼が陥った為めに、一時網の目は揺ぐであろう。