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せいあらば
生あらば
豊島 与志雄
「文章世界」1917(大正6)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,046 字 · 47 页
川部はその方を見やったが、急に立ち上った。
「では兎に角安心し給え。」
「もう帰るのか。」
「ああ一寸用があるから。ただ心配してるといけないと思って寄ってみたんだから。」
「それでは、どうか宜しく頼む。君のために助かったんだ。……そして一年ばかりのうちにはどうにかなるだろうから。」
「いやそんなことは気にかけないがいい。……然し、もし出来たら返してくれ、実は書物が出来る時一緒に国の母に送ろうと思っていた金なんだから。」
川部は妙に悲しそうに眼を伏せた。
「済まないね。」
「なに、いいんだ。お互のことだから。」
一人になると壮助はじっと机にもたれたまま涙ぐんだ。ほっと自分の前に途が開けたような気がすると共に、それが、凡ての、運命の動きが、何か大変なことになったような気がした。そしてその重い責の下から、溺れる者が水面に浮び出そうとするようにして、光子のことを思った時、彼の眼からは涙がこぼれた。
「光子、光子、ただお前に生があらば、そして自分に、我等に生があらば、凡てはよくなるであろう!」
眼を挙げると、障子には淡い日がさしていた。その日影を見守っていると、遠い野が心に見えて来た。