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せいとしとのきろく

生と死との記録

豊島 与志雄

「帝国文学」1918(大正7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页

青空文庫

然しそういう過去と未来との間に、大きな空虚がぽかりと穴を開いていた。其処に堯は意識を失ってじっと横わっていた。私は眼を閉じてその枕頭に坐っていた。坐っているのがつらくなって、長く寝そべって、両手に頭を抱えた。

朝、医員が見舞って来た。九時すぎにU氏の診察があった。

「嘔吐は?」とU氏は看護婦に聞いた。

「夜中から後は一回もありません。」

U氏はじっと患者の顔を見ていた。私は何とももう尋ねなかった。

十時頃から、二時間置きに人乳を五瓦ずつ与えることになった。乳は女医の人のを搾るのであった。それと共に薬もその前後に与えられた。間々には食塩水も与えられた。堯は、口中に水液がたまると、口を動かしてよくそれを飲み込んだ。

S子さんは種々なものを届けて来た。十一時頃、芳子の父のA氏が見舞って来られた。使をやって入院証書の調印を頼んだので堯の病気を知られたのである。間もなく芳子の産婆のIさんが見舞に来た。A氏の家から聞いてである。Iさんは堯をも取り上げた人だった。心配そうに堯の顔を覗き込んで首を傾げた。それから芳子の身体のことも心配している眼付をして居たが、それは何とも云わなかった。