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せいとしとのきろく

生と死との記録

豊島 与志雄

「帝国文学」1918(大正7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页

青空文庫

少し続けてやればすぐにチアノーゼを起しそうだった。否既に軽微なチアノーゼは起していた。夜になると、額を冷しているとすぐに頬のあたりまで冷たくなって、色が変りそうだった。

脈が時々結滞するようになった。カンフルの注射が行われた。十瓦の人乳を飲むのに、長くかかるようになった。それがすむと非常に疲れるらしかった。

夜U氏の回診の時、私は云った。

「脳は大丈夫でしょうか。よくなっても馬鹿になるようなことはないでしょうか。」

「ええ大丈夫です。脳膜炎を起したのではありませんから。」

私は、U氏からじっと見つめられて恥しくなった。もうそんなことを云ってる場合ではなかったのだ。然し……。

初めて入院前にT氏が見舞われた時、芳子が第一に聞いたのもそれだった。どうせ頭が馬鹿になるなら、苦痛なく死なしてやりたいと私達は思っていた。然し今ではその思いも何処へ行ったのか?

「ただ生命が助かれば!」と私は思った。

私と芳子とは、じっと眼を見合った。何とも云わないでじっと互の眼の中を見合った。

けれども、食堂で夕食を食べている時、私達はこんなことを囁いた。

「まずいね。」

「ほんとにどうしてこうまずいんでしょう。