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せいとしとのきろく
生と死との記録
豊島 与志雄
「帝国文学」1918(大正7)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页
洗面所の横に小さな箱があって、八号という札がついていた。その中に堯の病室用の氷や人乳や薬がはいっていた。あたりの空気が冷たかった。
私が三時に与えた人乳十瓦を、堯はよく飲んでくれた。私は嬉しかった。
じっと坐っていると、私はふと、どうしていいか分らない気持ちに襲われた。私の全身は或る大きい力で堯の方へ引き寄せられた。堯を自分の腕に胸に、強く強く抱きしめてやりたくなった。堯全部は、その全部が、私のものだった。自分のものだった。意識も何もなくてもいい。苦しみも、喜びも、堯は私の胸の中に融け込んでくる。何か大きいものが私を堯の方にぐいぐいと引きずってゆく。……私はその力にじっと唇をかみしめて抵抗していた。眼がくらみそうであった。と、突然何かがぷつりと切れた。私は白痴のようにぼかんとして、じっと堯を見つめていた、その呼吸を。そして独りでに、私の呼吸は堯の早い呼吸と調子を合していた。どうすることも出来なかった。私は堪らなくなった。其処に身を投げ出して頭をかき※(「てへん+劣」、第3水準1-84-77)った。
そういう心の発作が過ぎ去ると、私は深く大きく落ち附いて静まり返っている自分の心を見出した。