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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
然しああいうことは、もし店員全体に分ると悪い影響を及ぼすものだからね。」そして田原さんはじっと広田を見やった。「以後はよく注意してくれなくては困る。第一君は店の全部を取締る地位に在るではないか。その君自身が……いや僕はもうあのことに就いては何も云わない。君は十分悔悟している筈だから、ただ、このことだけはよく注意しておいて貰わなければならない。一度やったことは二度やり易いものだ。いいかね、一度行われたことは、後まで尾を引くものだ。それをよく考えておいてくれなくてはいけない。此度のことは君のためにいい修養だ。それを生かすか否かは全く君自身の力に在る。……僕の云うことは分ったろうね。」
広田は黙って顔を挙げた。頬の筋肉を痙攣さしていた。
「ただ無謀な考えを起さないようにし給え。」と田原さんは云い続けた。「君はまだ四十に間もある。君の生涯はこれからだ。そして大に店のために働いてくれ給え、店を自分の事業だと思ってね、いいかね。」
それから田原さんは、無雑作に紙幣を百円だけ其処に差出した。
「これは子供の病気に対する僕の心ばかりの見舞のものだ。取っておいてくれ給え。