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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
すると上坂の細君は、その挨拶に答えもしないで向うを向いたまま通りすぎてしまった。
しげ子は何だか変だと思ったがそのままにしておいた。そして暫く上坂の細君と交渉が絶えた。
そのうちに女中の口からおかしな噂を彼女はきき込んだ。彼女が宇野の細君に向ってさんざんに上坂の細君の悪口を云ったそうである。――上坂の細君はもと素性の賤しい女である、お人好しの馬鹿である、云々と。
しげ子はその時になって凡てのことがはっきり分って来た。そして温和しい彼女も、宇野の細君に対して一方ならず腹を立てた。憤慨の余り彼女は夫に向って、凡てのことを話した。
その時田原さんはこう云った。
「それはお前が馬鹿だからだ。ああいう人達と一緒になるからいけないんだ。よく自分のことを考えてごらん。お前は今腹を立てている。宇野の細君に対して腹を立てることは、お前自身を宇野の細君と同等の所へ引下げるからだ。あんな者と同じになりたけりゃ、いくらでも腹を立てるがいいさ。」
「だって余りではありませんか。自分で上坂さんの奥さんの悪口をさんざん云っておいて、それを皆私が云ったように上坂さんの奥さんの所で饒舌ったんですもの。