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たはらしのはんざい

田原氏の犯罪

豊島 与志雄

「黒潮」1917(大正6)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页

青空文庫

二人共執拗に黙り込んでいた。また何かが起ったのに違いなかった。恐らく父は酒の無いのを幼いみよ子に怒鳴りつけたのであろう。そして酒に酔っていない彼は、自分と自分の言葉に不快になって、黙り込んでしまったのであろう。

良助は思い切って家の中にはいった。

「おや兄さんが……。」そうみよ子は大きい声を出してすぐに立って来た。

「なに良助か。」

徳蔵はそう云って腰を立てようとしたが、またどかりと坐り込んでしまった。そして急に睥めるような眼附をしながら云った。

「上れよ。」

其処に学校の包みを置いてきちんと膝を折った良助の姿を、徳蔵はじろじろ見やった。

「どうしたんだ。」と彼はまた云った。良助が来たことは彼には全く意外であったらしい。

良助は黙って懐から金の封筒を取り出して父の前に置いた。

「旦那様からこれを父さんにやってくれと云われたから、学校の途中に一寸寄ったんだよ。」

徳蔵は封筒を取り上げて中を披いてみた。中には一円紙幣が五枚はいっていた。彼はそれを見ると口をぼんやりうち開いたまま、じっと良助の顔を見つめた。

「それはね、」と良助は云った、「旦那様が僕に下すったんだよ。