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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
」
「そうだ、若い時に勉強しなけりゃいけねえ。お前を奉公に上げる時に、屹度良助は立派な人間に育ててやると旦那は仰言ったんだ。それから俺が家に帰る時にな、もう俥夫は抱えないからこれはお前にやるってんで、俥を貰って来たんだ。素敵なものだったぜ。売り飛したら二十両だ。……何だろう、今じゃ旦那は毎日電車で店に通ってるんだろうな。」
「ああ電車だよ。」
「そうだねえ……。」徳蔵はそう云いかけたが急に口を噤んでしまった。そして何やら考え込んでいるらしかった。
みよ子が重そうにして徳利を抱え※を下げて帰って来ると、徳蔵は急に眼を輝かした。
「どれ。」そう云って彼は立ち上った。それから自分で火鉢の火をかき立てて※をあぶった。
「早く七輪で酒の燗をしな。」と彼はみよ子に怒鳴った。
然し徳蔵はすぐにまた燗をするのを止めさした。そして冷酒のままそれを餉台の上に置いた。
「お前は、」と彼は良助の方へ向いて云った、「学校があるんだったな。ゆっくりしちゃいけねえんだろう。いいから早く此処へ来な。これは祝いの酒だ。特待生になったんだね。一杯飲むがいい。景気をつけなくちゃいけねえ。さあ一杯飲みなったら……。