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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
五時頃に起き上って、楊枝を使いながら縁側に立っていますと、お父さんがじっと庭の向うに立っていられたのです。後ろから見ると急にひどく髪の毛が薄くなられたような気がして、妙な気持ちがしたのです。が、いつまでもお父さんはじっと向う向きに立っていられます。それがこう妙に空洞な老木の幹を見るような感じがするのです。まだ朝日は射していませんでしたが、あの向うの植込みの下まで透き通るような明るみに夜が明け切っていました。私は何とも云えないような気持ちになって、じっとお父さんの後姿を見ていますと、急に私の方をふり向かれて、『珍らしく早いね。』と云われました。前から私が見て居るのを知っていられたのに違いないんです。皮肉なような妙な笑顔さえ浮べていられたのです。それで私はすっかり狼狽いてしまって、『もう夜が明けてしまったんですね。』と変なことを云ってしまいました。するとお父さんはじっと遠くから私の眼の中を覗くようにして、『そうだ、この頃は四時頃にもう少し明るくなるんだ。お前なんかはそんなことは知らないだろう。』そう云われて、また前の皮肉なような笑顔をされるのです。それから、私が黙っているのを押っ被せるようにして、『早く支度をしないと遅くなるよ』