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たはらしのはんざい

田原氏の犯罪

豊島 与志雄

「黒潮」1917(大正6)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页

青空文庫

所で旦那はお家で。」

「ああ、あちらへ廻ってごらん。」

それで徳蔵は危なそうな足取りで庭から座敷の縁側の方へ廻った。

田原さんは、その時煽風器の風に身を吹かせて縁側に屈んでいた。

「やあ徳蔵か、どうだこの頃は。」

「へへへ相変らずでどうも……。」

「相変らず景気がいいんだな。」

「なに一寸景気附けですよ。お蔭で先達ては久しぶりに溜飲をさげやして、今日はそのお礼に出ましたような訳で。」

「なに礼なんかに来なくてもいいさ。あれは良助のために祝ってやったんだから。お前もいい息子を持って仕合せだね。良助は今に偉い者になるぞ。」

「本当ですか旦那。良助は偉いですかね。」

「ああ偉いとも。だからお前も少ししっかりしなくちゃいけない。何だろうな、その調子ではもう先日のものは飲んでしまったろうな。」

「へへへついどうも……。」

「まあ飲むのもいいがね、あの時良助は何か云いはしなかったか。」

「ええ云いましたよ、偉いことを云ったです。ええと、『酒は飲んでも構わない、ただ死んではいけない。』そして……私はどうも覚えが悪いんで外のことは忘れっちまったが、その言葉だけはちゃんと覚えてるんだ。