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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
と云っていた所の倦怠に似た疲労だった。
田原さんは心持ち眉を顰めて、そして黙り込んで少ししか食わなかった。始終重夫が自分の方をじろじろ見ているような気がした。
食後重夫はやさしい調子でこう父に話しかけた。
「今日もいつものように徳蔵に金をやられたんですか。」
「ああ少しくれてやった。」
田原さんはただそう答えた。声の調子は如何にも落ち附いていた。
「然しああ云うずぼらな奴にいつも黙って金をやると、益々図に乗って来ますよ。」
「なに大丈夫だ。それに私はだんだん徳蔵の気持ちが分って来るような気がするんだ。」
「お父さんはいつもそんなことばかり仰言るんですけれど、ちっとも物に価値の区別をつけられないんですね。お父さんのはいつも解釈ばかりなんです。それも余りに善意な解釈ばかりなんです。少しも判断ということをなさらないんです。」
哲学に趣味を有し高等学校の独法科に通っている重夫にとっては、凡てのことに判断と裁決とを要するのであった。彼の持論はこうであった。単なる解釈は社会を向上させはしない。社会を向上させるには判断と裁決とを要する。其処から彼は時として、尊敬する父に対しても抗議を提出することがあった。