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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
」
田原さんはそう云ったまま二階に上っていった。良助は一歩その後に従ったが、また頭を振って自分の室にはいった。
田原さんの不機嫌な顔と何かしら妙に忌々しい感情とは、その夕方まで続いた。
そしてその晩、重夫はこんなことを云った。
「徳蔵のような奴は早くどうにかしなければとんだ迷惑を及ぼしますよ。」
「なに大変正直な奴なんだ。ただ酒をのむのがいけないんだ。」と田原さんは答えた。
「それは正直は正直でしょうが、愚かだから危険です。切端つまった場合にはどんなことをするか分りません。それに泥酔の癖がありますから……。」
田原さんはそれには何とも答えなかった。そしてそのために益々不機嫌になった。その不機嫌さが神経に絡みついて、眉根をぴくぴく震わした。
そんなことは田原さんには珍らしかった。いつも落ち附いてじっと構え込んでいる彼には、そんなことは実際非常に稀にしかなかった。で重夫もしげ子も妙にその晩は黙り込んでしまった。
その夜、田原さんは早くから床にはいった。良助が夜学から帰って来て、「旦那様は?」と女中にきいた時は、田原さんはいつになく熟睡していた。
夜半に田原さんは眼を覚した。