轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
そしてその風の間に、物の隅にちらちらと赤く光るものがあった。じっと見つめていると、やがてそれが大きい焔になって燃え初めた。と人影が一つすっと何処かへ走った。焔は渦を巻いて家に燃え移った。そして彼はいつのまにかその焔にとりまかれていた。「しまった!」と思うと田原さんは眼を覚した。
それは殆んど一瞬間に起った幻だった。然しその意識が如何にもはっきりして、醒めた後の意識とすぐに続いていた。ただ風の音と焔とが、静けさと闇とに代ったのみであった。耳を澄すと庭の方に当って人の気配がした。誰かが足音を盗んで窺い寄っているらしかった。
田原さんは起き上って帯をしめ直した。それから暗闇の中で、用心のために戸棚からピストルを取り出して弾丸をこめた。
彼はそっと雨戸に近寄って、音のしないように静かに一枚戸を開いた。
重くどんよりと曇った夜であった。庭の中は、仄蒼くぼんやりした明るみが空気の中に在った。透し見ると向うの白く浮き出した庭石の上に、人の影が蹲っていた。
田原さんは少しも驚きはしなかった。凡てが予期した通りであった。そして彼は頭がはっきりしているのを感じた。恐ろしいほど澄み切ってはっきりしているのを感じた。