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でんえんのまぼろし

田園の幻

豊島 与志雄

「世界評論」1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,053 字 · 17 页

青空文庫

もし不在中に花子が荷物を取りに来たら、困ることになるかも知れないと、私はちらと考えた。お祭りの晩あたりに……と彼女は言った。然し漠然としたことなので、馬鹿正直に待ってるにも及ぶまい。

ドーン、ドーン、ドンドコドン、ドーン、ドーン……

かすかに、八幡様の方では太鼓が鳴っていた。道路はほんのり白いが、四辺はもう暮れてしまっていた。

宗吉の家は小高い台地の上にある。だらだら坂を降りると、稲田の匂いが夜気にこもっている。路傍の雑草にはまだ露はおりていない。その田圃道を無言で五六町行くと、大きな堤防に出る。堤防の向うが広い河原で、清い水が瀬を作り淀みを作ってうねうねと流れている。

水の浅い岸辺や、流れのゆるやかな瀬に、夕方から、川魚は餌をあさりに出ている。それに投網をかぶせるのである。

宗吉が相図をすると、私と宗太郎はそこの河原に立ち止る。宗吉は一人すたすた歩いてゆき、時には河原から、時には浅瀬にふみこんで、下手から上手の方へ水脈を物色しながら網を投ずる。その水音と共に、私たちは駆けつける。宗太郎が龕燈の光りをぱっと差しつけると、魚は突然光りに酔う。網は手繰られてしぼられ、河原に引き上げられる。