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でんえんのまぼろし

田園の幻

豊島 与志雄

「世界評論」1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,053 字 · 17 页

青空文庫

きらきらした銀鱗が見える。網の袋を繰って、魚は河原に放り出される。そのぴちぴちしたやつを、私と宗太郎が魚籠に拾い込むのである。ハヤ、フナ、ハゼ、ドンコ、時には、アユ、ナマズ……雑多なものが捕れる。

この投網の夜打ちは、なかなか楽しい。河水は方々の堰で水田へ引いてあるから、河原は広く、玉石のところもあれば砂のところもあり、青草が生えてるところもある。足袋はだしで駆け廻っても躓くことはない。さらさらと流れてる清い瀬には、たくさんの魚が泳いでいそうな気配があるし、夜気も水も同じような温度で、肌寒さは感じない。そして初秋の空は、星を鏤ばめてあくまでも高い。ただ、物陰だけがちと薄気味わるい。竹籔の陰、灌木の陰、木立の根本の深い淵陰、へんに闇の色が澱んで、何かが潜んでいそうだ。人間とは縁の遠い未知の、怪しい奴である。其奴に対しては、投網も、何の役にも立たない。龕燈の光りも、僅かな範囲にしか届かない。だが、そうした物陰もこの辺には少く、河原や水面は清く爽かに拡がっている。

「今晩は不漁だな。」宗吉は呟いて、網をじゃぶじゃぶ洗った。

まったく、その晩は獲物が少なかった。