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こうしゅうちんぶたい
甲州鎮撫隊
国枝 史郎
「講談倶楽部」1938(昭和13)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,891 字 · 28 页
徳川幕府二百六十年の恩誼に報いようと、旗本の士が、官軍に抗しての戦いで、順逆の道には背いた行為ではあったが、義理人情から云えば、悲しい理の戦いでもあった。しかし、大勢は予め知れていて、彰義隊の敗れることには疑い無かった。江戸の人々は、一日も早く、世間が平和になるようにと希望みながら、家根へ上ったり、門口に立ったりして、上野の方を眺めていた。長州の兵は、根津と谷中から、上野の背面を攻めていた。その戦いぶりを見ようとして、権現様側に集まっていた群集の中に、お力もいた。髪を綺麗に結び、新しい衣裳を着ていた。沖田総司を殺しそこなった晩、これも行きがけの駄賃に、池の沖へ潜込み、盗み出した幾十枚かの小判が、まだ身に付いているらしく、様子が長閑そうであった。島原の太夫から宮川町の女郎、それから、隠密稼ぎまでしたという、本能そのもののようなこの女は、もう今では、細木永之丞のことも沖田総司のことも念頭に無いらしく、群集の中の若い男へ、万遍なく秋波を送っていた。しかしその時、背後から
「こいつがお力だ」
という聞覚えのある声がしたので、驚いて振返って見た。植甚が群集の中に立って睨んでいた。