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いしつしょうくばいさよう
異質触媒作用
寺田 寅彦
「文芸」1933(昭和8)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,360 字 · 13 页
面倒な理窟や計算は抜きにしても少なくも病院にはいるより安いことだけはたしかである。
試みにある日曜の昼過ぎから家族四人連れで奥多摩の入口の辺までという予定で出かけた。青梅街道を志して自分で地図を見ながら、地理を知らぬ運転手を案内して進行したが、どこまで行ってもなかなか田舎らしい田舎へ出られないのに驚いた。杉並区のはずれでやっとともかくも東京を抜け出すまでが容易でなかった。この町はずれで巡査に呼止められて検査済の札を貼らされたが、一処に止められた他の車に式場へ急ぐらしい角かくしの花嫁の姿も見えたのは気の毒であった。
東京の行政区劃だけは脱け出しても東京の匂いはなかなか脱けない。それでも田無町辺からは昔の街道の面影が保存されているらしい。いくつとなく踏切番のいない鉄路を横切るのは不安である。突然路が右へ曲ると途方もない広い新道が村山瀦水池のある丘陵の南麓へ向けて一直線に走っている。無論参謀本部の五万分一地図にはないほど新しい道路である。道傍の畑で芋を掘上げている農夫に聞いて、見失った青梅への道を拾い上げることが出来た。地図をあてにする人間が地図にない道に出逢ったほど当惑することはない。