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くじょしょうろく

痀女抄録

矢田 津世子

「改造」1939(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,578 字 · 65 页

青空文庫

の繍は原画の傑出せると共に有名なり」とあるけれども、これが何処に蔵されているかは明らかにされて居ない。

省線をうぐいすだにで降りて、徳川御霊屋の塀に沿うて樹木の鬱蒼と覆いかぶさっている径を博物館へと取った。暦のうえではもう秋立つ日も疾うにすぎているけれども、暑さはいよいよ加わって木の間を洩れる陽射しにも背をやかれるよう、人どおりのまったく絶えたこの径には蝉しぐれが降りしきって聾するばかりのかしましさのゆえか辺りの寂けさがひとしお澄んで感じとられる。蝉取りの子供たちに行き会うただけであった。

博物館の門前に辿りついてわたくしは躊躇し訝った。砂利はこびの人夫たちの出入りがしげくて辺りの様子がなにかざわついている。門衛のはなしに、このほど新館が落成したので今は陳列品をそちらへ移しかえるため休館になっているということであった。

「十一月迄の御辛抱ですな。その代り今度は立派なところで御覧になれます。ほれ、あそこにみえるのが……」

老門衛は番所を出てきて眼を皺めて、指先きに挟んだチビた莨で樹間の白い巨大な建物をさした。

「天寿国繍帳」の造製に与かった絵師たちは推古天皇の十二年帰化画師保護のため定められた黄書画師ならびに山背画師に属する人びととしてものの本にみえている。