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くじょしょうろく
痀女抄録
矢田 津世子
「改造」1939(昭和14)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,578 字 · 65 页
客があって、茶の支度を吩咐けにきたのであったが、早く牀に臥していた寿女は、飛び起きて、前をかき合せざま壁に背を寄せた。促し立てられると背を壁に沿うたなり、勝手へ出て、ふらつく躯を踏みこたえながら茶の支度にかかった。
それから数日すぎて、龍子が外から帰って来ると、いつも走り出迎える寿女の姿が見えない。声をかけてもなんの気配もない。女中部屋を覗いて見ると、枠台に屈み込んで、せいせい呼吸をはずませて針に熱中していた。
梅雨に入ってから、寿女は、また一週間ばかり早寝をした。夜中、水を飲みに起き出るような気配も、呻き声も、うつつに聞いたようであったが、龍子は眠っていた。
或る日、突然、寿女の姿がみえなくなった。龍子が弟子たちに稽古をつけていた間のことである。その夜は戻らず、尾久の家かと大して気にもとめなかった。
一日おいて、中尾が来たので、龍子は話した。尾久からは、来ていないと簡単な返事があった。中尾は、女中部屋の押入れの中を調べた。龍子はすっかり落着きを失って、敷居のところにうろうろして、せっついて中尾に話しかけてばかりいた。
小枠だけがみえなくなっていた。