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くじょしょうろく

痀女抄録

矢田 津世子

「改造」1939(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,578 字 · 65 页

青空文庫

はあ、あの人が、ねえ」

と、中尾は、再び感じ入った。

「仲々、がっちりしてる爺さんよ」

と言って、龍子は口惜しそうな顔をむき出しにみせた。

好物の天麩羅蕎麦が届くと、中尾は、浮きうきして喋り続けた。

「お寿女さんも、なんだねえ、二十八やそこらで死ぬなんて可哀相なもんだが、これも寿命とあればねえ。そうそう、看護婦が言ってたっけが、病院に運び込まれた時は意識がまだ判っきりしててね、自分が死んだら直ぐ火葬て呉れ、誰れにも知らせないで、直ぐ火葬て呉れ、って、うるさく頼んだそうだが……そうそう、それからね、なんでも、髪を結って呉れ、って随分せがんだそうだがね。矢っ張り、女の子だねえ」

龍子は横を向いて、涙ぐんでいた。

丼をかたげて、ずるずると音をたてて汁を啜りきってしまうと中尾は、手の甲で口のはたを拭いながら言った。

「二口あるんですがね。百五十円と二百円ですが、どうも、二百円のほうは、三文役者の当なしなんでねえ」

「それあ、駄目よ」

と、龍子は撥ねた。

「それから、河合がまた百円都合してくれって言うんですがね。もっとも、前のきまりは持ってきました」

中尾は、内かくしから状袋をとり出して、利子の勘定をはじめた。