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びょういんふうけい
病院風景
寺田 寅彦
「文芸春秋 第八巻第二号」1930(昭和5)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,521 字 · 8 页
またある日。
窓の下の森田屋の前で、運転手と助手とが羽根をついている。十くらいの女の子も二人でついている。子供の方が大人より上手である。若い丸髷の下町式マダムが弁慶縞の上っぱりで、和装令嬢式近代娘を相手に、あでやかにつややかに活躍している。
またある日。
糸のような雨が白い空から降る。右手の車庫のトタン屋根に雀が二羽、一羽がちょんちょんと横飛びをして他の一羽に近よる。ミーラヤ、ラドナーヤとでも囀っているのか。相手は逃げて向うの電柱の頂へ止まる。追いかけてその下の電線へ止まる。頂上のはじっとして動かない。下のは絶えず右に左にからだを振り動かしている。いつまでも動かしている。
その電柱の辺に、学生時代のクラスメートTMの家がある。彼は今はW大学の数学の先生である。三十年前にはよくTMと一緒に本郷、神田、下谷と連立って歩いた。壱岐殿坂教会で海老名弾正の説教を聞いた。池の端のミルクホールで物質とエネルギーと神とを論じた。
TMの家の前が加賀様の盲長屋である。震災に焼けなかったお蔭で、ぼろぼろにはなったが、昔の姿の名残を止めている。ここの屋根の下に賄いの小川の食堂があって、谷中のお寺に下宿していた学生時代に、時々昼食を食いに行った。