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びょういんふうけい
病院風景
寺田 寅彦
「文芸春秋 第八巻第二号」1930(昭和5)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,521 字 · 8 页
人間の世界は何もかも変って行くが、雀はおそらく千年前の雀と同じであろう。
またある日。
赤門からはいって行く。欅の並木をつつむ真昼の寒い霧。向うから幸福な二人連れが来てすれちがう。また向うからただ一人、洋紅色のコートを着た若い令嬢が俯向いたまま白いショールで口を蔽うて、ゆっくりゆっくり歩いて来る。血色のいい頬、その頬が涙で洗われている。
正月の休みで、外には誰も通る人がない。旧解剖学教室、生理学教室の廃墟には冬枯れの雑草ががらがらに干からびて哀れである。いかめしい城郭のようなライブラリーも柔らかで憂鬱な霧の薄絹に包まれている。
涙の女はゆっくりゆっくり図書館の方へ歩いて行く。しばらくして、もう一遍振返って見ると、女は引返してまたこっちへゆっくりゆっくり歩いて来るらしい。可哀相に。
からだの怪我や片輪は、直るものなら病院で直してくれる。傷ついた心、不具な理性を直してくれる病院はないものか。昔はそれがあった。それが近代の思想の嵐に倒潰した。そうしてこれに代わるべき新しい病院はまだ建たぬ。可愛相に。
病院も正月で静かである。病室は明るく温かい。窓の下では羽根をついている。