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しろいくま
白いくま
小川 未明
「良友」1926(大正15)年10~11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,512 字 · 9 页
その海は、おしで、盲目なのだった。なぜなら、ものすごい叫びをあげている波は、みんな口を縫われてしまって、魚のうろこのように、海はすっかり凍っていたからであります。そして、氷山が、気味悪く光って、魔物の牙のように鋭く、ところどころに、灰色の空をかもうとしていたからです。
脂肪のたくさんな、むくむくと毛の厚いしろくまはそこを平気で歩いていました。また、氷が解ける時分になれば、険しい山の方へのこのこと帰ってゆきました。広い寂しい天地の間を自由にふるまうことができたのでした。
それが、いまどうでしょう。熱い、熱い、知らない国に連れてこられて、狭い鉄のおりの中へいれられてしまったのです。はじめのうちは、腹だたしいやら、残念やらで、じっとしていることができませんでした。かんしゃくまぎれに鉄の棒を折り曲げて、外へ暴れ出してやろうと、何度となく、そのおりの鉄棒に飛びついたかしれません。
力の強いくまは、いままで、こんなに、体の中にあった力をすっかり出したことはなかったのです。なぜなら、その必要がなかったのでした。いま、いくら力を出しても、すべてが無効であることを知ったときに、くまは、はじめて人間が、自分より智慧のある動物だということをも知ったのでした。