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しろいくま
白いくま
小川 未明
「良友」1926(大正15)年10~11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,512 字 · 9 页
しかし、くまも、いつしかすっかり、この国の生活に慣れてしまいました。そして、いまではあまり生まれた国のことなどを思い出さなくなったようです。境遇というものは、しぜんにその性質までも変えてしまうのでした。
子供の時分に、この熱い国の動物園に連れられてきた白いくまは、もう年をとってしまいました。
ある日のこと、やしの樹の木蔭で、青い着物をきて、白い布を頭に巻いた係の男が、大きなパイプで、いい香気のするたばこをすぱすぱと吸って、石に腰をかけて、考え顔をしていました。
そこへ、一人の紳士が、令嬢をつれて通りかかりました。この紳士は日ごろから、この動物園の男を知っているとみえまして、にっこりと笑って、顔を見合わせると、
「このごろ、しろくまはおとなしくなりましたね。」といいました。
パイプをくわえていた男は、青い煙を吹きながら、
「いまも、しろくまのことを、私は、考えていたのです。このごろは、あんまり水の中へも、たくさんは飛び込まないし、暴れまわったということもありません。まったくおとなしくなりましたよ。それは、まことにけっこうなことなんですが、困りましたのは、あんまりチョコレートを食べたもので、歯がすっかり、もうだめになってしまったんです。