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しろいかげ

白い影

小川 未明

「婦人公論」1923(大正12)年1月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 6,097 字 · 13 页

青空文庫

「不思議だ!」という声が、あちらにも、こちらにも起こりはじめました。

「いったい、どうしたことかな?」と、大臣は眉のあたりをしかめて、おそばのものにたずねました。おそばのものは、さっそく、汽車の監督を呼んで、子細をさらにたずねたのであります。

監督は恐縮して、いまあった事実を答えました。

「線路内を歩いていくものがありますから、笛を鳴らしたのです。」

「その笛の音は私も聞いた。」と、シルクハットをかぶった高等官はうなずきました。

「歩いている人間は、耳が聞こえないとみえて、いっこう平気で、汽車が後からくるのを気づかなかったのです。しかたがないものですから汽車を止めました。しかし、そのときは、もう遅かったか、歩いている人間のそばまで汽車が走っていきました。」

「ひいてしまったのか? しかし、前後の事情を聞けばしかたがないことだ。」と、高等官はいいました。

「いえ、ところが、線路の上にも血が流れていず、またあたりにも、その人間の影が見えないのです。」

「どんなようすをしていたのか?」

「やはり、白い着物を着ていたといいます。」

こう答えて、監督は、高等官の顔を仰ぎました。