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しろいあさ

白い朝

豊島 与志雄

――「正夫の童話」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,920 字 · 35 页

青空文庫

姉でもなく、恋人でもなく、母親では勿論なく、遠い冷い、頼りない人です。

正夫は立上って、硝子戸を閉めました。

十一時前頃だったでしょうか、正夫と駒井さんとは、へんに敵意を含んだように、つまらないトランプや花ガルタの遊びに熱中していました。そこへ、気にはしながら予期しなかったことですが、芝田さんが帰って来ました。なおびっくりしたことには、雨はもうやんでおり、書生の丹野もいつしか戻ってきて、自分の室で勉強していました。

芝田さんは、少し雨に濡れていました。坐る時によろけかかって、食卓にがっくりもたれました。酒にでも酔ってるのでしょうか。そしてへんに眼ばかり光らして、黙っています。

その芝田さんを、今日に限って、正夫はなんだか恐い気持がします。

正夫の家への電話のことをきいても、芝田さんはぼんやりして、もう忘れてるようなんです。別に用事もなかったのでしょう。晩の御馳走のことをきくと、その残りの料理を出さして、酒をのみだしました。駒井さんが、金子さんからの果物籠をもちだすと、すぐにその包み紙をといて、うまそうなのを物色しだしました。そして金子さんの就職のことを、駒井さんが繰返し頼むのに、ただ気のないうなずき方をしてるばかりです。