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しろいかや

白い蚊帳

宮本 百合子

「中央公論」1927(昭和2)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,800 字 · 18 页

青空文庫

なほ子は、すっかり道具をしまった小車を引いて彼等がそこを立ち去るまで見ていた。

「あんなにやって、いくら位貰ったのかしら……一円ぐらい?」

詮吉は座敷の長火鉢の前に中腰になったきり、

「さあ、この辺じゃ一円は出すまい、よくて五十銭だろう」

口を利きながら、彼は持っている半紙大の紙へ頻りに筆を動かした。

「なあに」

「――ふむ」

やがて、

「どう? 一寸似ているだろう」

彼が持って来たのを見ると、それは大神楽に見とれていたなほ子のスケッチであった。横を向いている頬ぺたのところや、爪先に引っかかったスリッパの尻尾が垂れ下っているところなど、なほ子は自分の感じをはっきり感じた。

「こんなに描けるの? 詮吉さん」

「偶然さ、君が余り余念なく見ているんで一寸面白いなと思ったもんだから。――でも感じ出ているでしょう」

「うまいことよ、この位なら物になるかもしれないわ」

詮吉は日本橋の方に商人暮しをしているのだが、絵でも習いたい、そういう趣味の幾分かある若者なのであった。

三階は、湯治客のすいている時なので空部屋が多い。静かな廊下を、二人はスケッチをもって、総子のいる方へ戻った。