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はくとうのうた

白塔の歌

豊島 与志雄

――近代伝説――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,450 字 · 43 页

青空文庫

が人目を惹くものがありました。彼女はしばしば高賓如の方へ言葉をかけました。高賓如は簡単な返事だけをしておいて、おもに隣席の荘一清と話をしました。古典や近代文学にも彼は少しばかり知識がありました。

汪紹生は殆んど口を利きませんでした。時々柳秋雲の方を眺めました。柳秋雲は無口でつつましくしていましたが、顔を挙げて汪紹生の視線に出逢うと、またすぐに眼を伏せました。

そして、四時間余に亘る酒宴は別に事もなく運ばれましたが、方福山は突然呂将軍に向って、二人とも何の理解も持っていそうにない音楽の話を初め、あらゆる歌曲のうちでもやはり京劇のそれが最も優れているという結論を引出しました。そして彼は陳慧君に呼びかけて、如何にも自然な無造作な調子で、柳秋雲さんの歌を少し聞かして頂けまいかと頼みました。陳慧君は微笑んで、柳秋雲に何か囁きました。そして不思議にも、柳秋雲はすぐに立上ったのでした。方美貞が喫驚した眼で彼女を眺めました。

柳秋雲は少し蒼ざめた顔を緊張さして、石のようにあらゆる表情を押し殺していました。そしていいました。

「私は歌妓ではございませんから、ごくつまらないものきり存じませんけれど……。