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はくとうのうた
白塔の歌
豊島 与志雄
――近代伝説――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,450 字 · 43 页
彼女にとっては、僕達を逃がさない口実だろうが、僕達にとっては、彼女への義務ということになる。どうだろう、あれが至急手にはいるかね。金はここに用意してきてるが…。」
汪紹生はじっと考えこんでしまいました。
「君から彼女へ手渡すがいいと思うんだがね……。」
汪紹生はなお考えこんでいました。それから突然立上って叫びました。
「よろしい、彼女との約束を果そう。」
柳秋雲の所謂玩具というのは、実は、一挺の小さな拳銃のことでありました。
柳秋雲については、いろいろな説がありますが、それらのいずれもが不確かなもので、いわば彼女は一種神秘な影をいつも身辺に帯びていました。
彼女はその生家も縁者も出生地も不明な全くの孤児で、陳慧君の許で養女なみに扱われておりました。伝えるところに依りますと、嘗て、陳慧君が太沽に行った折、港の岸壁の上で、果物や煙草の露天店の番をしている六七歳の少女を見かけましたが、ふと、その怜悧そうな眼差と気品ありげな顔立とに気を惹かれて、そこに立止ってしまいました。やがて、露天店の主人らしい爺さんがやって来まして、果物や煙草をすすめますと、陳慧君は頭を振って、少女のことを尋ねました。