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しらねのふもと

白峰の麓

大下 藤次郎

「みずゑ」1910(明治43)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 页

青空文庫

今朝は汁もない、辛い味噌漬二切で食事をすます。

暫く焚火を囲みながら、天気の模様を見る。

霧は晴れそうにもない。沢のほとり、林のあたりで、何やら冴えた声で鳥が啼く。うっとりとよい心持になる。歌舞伎座も八百膳も用はない。このまま一生ここにいても悪くはないと思う。が、そうもならない、この霧は昼過ぎにでもならねば晴れまいという。残念だが六万平を思い捨てて湯の宿へ帰ることにした。

霧の中を下へ下へと急ぐ、急に明るくなって、遠くの山が一角を現わすかと見ると、忽ち暗くなって、すぐ前の林をかくす、歩一歩、早川渓の水声が高くなって、吾らはいつか宗平の家の前に立った。

俄に雨が降り出したので、洋傘を借りて、霧繁き草道を、温泉へ帰ったのは十時頃であった。

昨夜帰らないので、宿では迎いを出そうとしたそうだ、しかし宗忠もついているから、たぶん湯島へ泊ったことと、終に見合せたといっていた。

生温くとも湯に入った心持はわるくはない。

十七

九日には曇っていたが、降りそうにもないので、前日見ておいた湯島河原の小流を写そうと思って、九時頃から出かけた。上湯島に渡る釣橋の手前で、河原を少し跡へ戻ると若杉の森があって、その下に細い流れが見える。