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しらねのふもと

白峰の麓

大下 藤次郎

「みずゑ」1910(明治43)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 页

青空文庫

大きな景色もあるが、小さな画題は無数である。

鎮守の鷲尾神社にゆく、二百階も石段を登ると本社がある。甲州一と里人の自慢している大杉が幾株か天を突いて、鳥一つ啼かぬ神々しき幽邃の境地である。

社前に富士を写す。すぐ前の紅葉せる雑木林がむずかしい。去って村の水車の傍で、白壁の土蔵を写す。

夕方宿へ帰る。農家の忙しい時で、家には誰もおらぬ、草鞋を脱ぎ座敷へ戻っても、火も茶も持って来ない。御客の帰ったのも知らぬからで、暢気なものである。

翌朝は天気、居ながらにして見る富士は美しい。嫗さんは朝のお茶受にとて、花見砂糖を一鉢持って来た。

二十四

十四日の八時半平林を発足して、山際を川に沿うて下ると、一里ほどで舂米という村に出た。人家二、三十、道路山水としては格別面白くはないが、川沿の柳の色がいかにもよいので、三脚を据えた。

川には殆ど水がない。その岸にある四、五本の柳は、明るいオレンジの色をして並んでいる。背景は甲州盆地の平原で、低い山がうす霞んで、ほんのりと紅味を帯びた空は山にも木にもよく調和していた。何処を見ても物の色は佳い。暗く影の深い鎮守の森、白く日に光る渓川の水、それを彩るものは秋の色である。