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はくじつむ

白日夢

豊島 与志雄

「新小説」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,672 字 · 23 页

青空文庫

「え、何処に?」

「隣りの家に。」

「お隣りですって? まあどうして?」

そこで私は、酔ったまぎれに隣家へ飛び込んで、そしてまた飛び出してきた顛末を、頭にぼんやり残ってるまま、話してきかせなければならなかった。妻と女中とは、呆気にとられたような眼付をして、私の顔ばかりを見つめていた。私は極り悪さのてれ隠しに、後始末の方へ話を向けていった。

「明日になったら、お前行って、よく謝った上で、羽織を貰ってきてくれないか。」

妻は暫く返辞もしなかったが、やがてとってつけたように答えた。

「いやですよ、そんな気の利かないお使なんか。」

「だって僕が行くのも何だか変だし、お千代をやるわけにもゆかないし、まあお前が行ってくれるのが、一番順当だろうじゃないか。」

それでも妻は行くのを承知しなかった。自分で仕出来したことは自分で始末するのが当然だ、と彼女は主張した。お前の方が隣りの人達と顔馴染があるから、と私は云った。然し私は玄関まで挨拶に行ったきりだが、あなたは長火鉢の前に坐り込みまでなすったのだから、と彼女は云った。でもそれは酔った揚句の間違いだから、と私は云った。男って重宝なもので、何でも酒のせいにすればよいと思ってる、と彼女は云った。