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はくちゅうむ

白昼夢

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,690 字 · 8 页

青空文庫

大喇叭が頓狂な音を出した。「ここはお国を何百里、離れて遠き満洲の」子供等が節に合せて歌いながら、ゾロゾロとついて行った。

「諸君、あれは俺のことを触廻っているのだ。真柄太郎は人殺しだ、人殺しだ、そういって触廻っているのだ」

又笑い声が起った。楽隊の太鼓の音丈けが、男の演説の伴奏ででもある様に、いつまでもいつまでも聞えていた。

「……俺は女房の死骸を五つに切り離した。いいかね、胴が一つ、手が二本、足が二本、これでつまり五つだ。……惜しかったけれど仕方がない。……よく肥ったまっ白な足だ」

「……あなた方はあの水の音を聞かなかったですか」男は俄に声を低めて云った。首を前につき出し、目をキョロキョロさせながら、さも一大事を打開けるのだといわぬばかりに、「三七二十一日の間、私の家の水道はザーザーと開けっぱなしにしてあったのですよ。五つに切った女房の死体をね、四斗樽の中へ入れて、冷していたのですよ。これがね、みなさん」ここで彼の声は聞えない位に低められた。

「秘訣なんだよ。秘訣なんだよ。死骸を腐らせない。……屍蝋というものになるんだ」

「屍蝋」……ある医書の「屍蝋」の項が、私の目の前に、その著者の黴くさい絵姿と共に浮んで来た。