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はくもくれん

白木蓮

豊島 与志雄

「芸術」1947(昭和22)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,039 字 · 24 页

青空文庫

身寄りの者だという中年の女が出て来て、言葉少なに挨拶をした機会に、私は席を立った。玄関に訪れて来た数人のわきを、私はすりぬけて、表に出た。喜美子はあとに居残ったらしい。

そして加津美の二階の室で、私は桃代の死をはっきり感じ、同時に、彼女の姿をまざまざと思い浮べた。私にとっては、彼女はそこにしか存在しないのだ。――そうだ、ほかの何処にも彼女はいない。その室にだけ、つまりお座敷にだけ、彼女はいるのだ。

その彼女は、いつも髪をきれいに結っている。どんなに乱酔してもその髪を乱さない。顔から肩にかけて、いつも白粉がぬられていて、決して素肌を見せない。水で洗ってもそれは落ちないだろう。眉が太く、眼が近視らしく、大まかな顔立だが、なにか巧妙な糸で操るような微妙な表情をしながらも、決して相好を崩すということがない。大きく衣紋をぬいた着附だが、襟元はきっちり合さって、帯は常に寸分の狂いもない位置に定着している。上半身は反り加減に、胸も背も板ででも出来てるようで、腰だけでしか屈伸しない。ぴたりと端坐する膝は、蝶番のようで、横坐りには片手を畳につかなければならない。その全体が、いつも香水の仄かな匂いをつけ、それが肌身にまでしみこんで、体臭というものがない。