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はくもくれん
白木蓮
豊島 与志雄
「芸術」1947(昭和22)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,039 字 · 24 页
寝床にはいるにも、長襦袢に伊達巻をきりりと胸高にしめ、肉附の多い体躯を軽やかに横たえ、そしていつもきまった姿態を崩すことがない。――すべてが、一定の型にはめられている。
喪失したのは、そういう肉体だ。一定の型に訓練され馴致された肉体だ。それは桃代であろうか。いや誰でもよいのだ。それならば、あの桃代はどこにいるのだろうか。
さむざむとした思いで、一人考えこんで、飲んでいると、いつのまにか喜美子が来ている。じっと見返すと、喜美子も私の方をじっと見ていたが、ふいに、涙をはらはらとこぼす。声も立てず、肩も震わせず、ただ涙だけが流れる。自然に雨が降るような泣き方だ。桃代の枕頭にいた時と同じだ。
その涙がやむのを待って、私は尋ねた。
「喜美ちゃん、桃代は亡くなる時に、何か言いはしなかったの。」
喜美子は頭を振る。
「何にも言わなかったの。」
「ええ。だけど、その前に、しんみり言ったことがあるわ。」
「どんなこと。」
「男のひとに、決して肌身を許してはいけないって、そう言ったわ。一人のひとに許すと、また、二人めのひとに許すようになる。二人めのひとに許すと、また、三人めのひとに許すようになる……。