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はくもくれん
白木蓮
豊島 与志雄
「芸術」1947(昭和22)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,039 字 · 24 页
」
そして彼女は宙に眼を据えて、何かを思い出そうとする様子で、言い続ける。
「それから、たしかなひとと結婚なさいと言ったわ。そしてまた言いなおしたの。一人のひとと結婚すると、また、二人めのひとと結婚するようになる。二人めのひとと結婚すると、また、三人めのひとと結婚するようになる……。」
「それで。」
「それだけよ。そして桃代さんは笑ったの。だけど、あたし、なんだかへんな気がして、忘れられないわ。」
「なあに、冗談だったろうよ。」
私は心にもないことを言ったものだ。桃代は喜美子を本当に愛していたのかも知れない。誰の手にも渡したくなかったのかも知れない。然しそれならば、喜美子を抱きすくめるとか、頬ずりをするとか、そんなことをどうしてしなかったのだろう。手を握られたこともないと、喜美子は言うのである。或は、肉体と肉体との接触などを桃代は極度に蔑視したのでもあろうか。
私は桃代の肉体を失った。だが、桃代はいつもまだその辺にいるような気がする。その桃代のために、喜美子に対してはただ、夢のような空しい愛情だけを持つことにしよう。喜美子はそれに丁度ふさわしい。白木蓮の花のような女だ。