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しろばなのあさがお

白花の朝顔

泉 鏡花

「週刊朝日 第二十一ノ十六号(春季特別號)」1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,880 字 · 62 页

青空文庫

――更に、日もおかず、お絹が土手番町へ訪ねて来た、しかもその夜、上野の清水の御堂の舞台に、おなじように、二人で立つ事になったんです――

音羽のその時は、風情がいいから、もう一度、団栗橋を渡り返した、京洛中と東山にはさまって、何だか、私どもは小さな人形同然、笹舟じゃあない、木の実のくりぬきに乗って、流れついた気がします――

そうですよ、宿は西石垣のなにがし屋に取ってあったのですが、宿では驚いていたでしょう。路之助の馳走になりつづけで、おのぼりの身は藻抜の殻で、座敷に預けたのが、擬更紗の旅袋たった一つ。

しわす、晦の雪の夜に、情の宿を参らせた、貧家の衾の筵の中に、旅僧が小判になっていたのじゃない。魔法妖術をつかうか知らん、お客が蝦蟆に変じた形で、ひょこんと床間に乗っている。

お絹が引添っての、心づけでは、電話で、もう路之助から、ここの勘定は済んでいる。まだ、それよりも、お恥かしいやら、おかしいのは。……

(――お絹さん、その手提袋ですがね、中味が緊張しておりません、張合のないせいか、紐が自から、だらりとして、下駄のさきとすれすれに袋が伸びていたそうで。