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しろばなのあさがお

白花の朝顔

泉 鏡花

「週刊朝日 第二十一ノ十六号(春季特別號)」1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,880 字 · 62 页

青空文庫

二階の裏窓から漏れる電燈に、片頬を片袖ぐるみ笠を黒髪に翳して、隠すようにしたが、蓮葉に沓脱をひらりと、縁へ。

「ふらふらする。ちょっと歩行くと、ふらふらしますわ。酔っちまって。」

と、元の座にくずれた。

「ああ私、何だか分らない。」

ふう、と仰向けに胸の息づかい、乳の蔦がくれの膨みを、ひしと菅笠で圧えながら、

「巡礼に御報謝……ね。」

と、切なそうに微笑んだ。

電燈を背後にして、襟のうすぐらい、胸のその菅笠が、ほんのりと、朧に白い。

「や、お洲美さん、失礼ですが、隠して下さい、笠を透して胸が白い、乳が映る。」

「見えますか。」

「申すも憚りだが、袖で隠して。」

「いいえ、いいえ。」

おくれ毛が邪慳に揺れると、頬が痩せるように見えながら、

「嬉しい、胸が見えるんです。さ、遮るものなしに通った、心の記念に、見える胸を、笠を通して捺塗って見て下さい。その幻の消えないうちに。色が白いか何ぞのように、胡粉とはいいませんから、墨ででも、渋ででも。」

「雪が一掴みあればいいと思う。」

「信や……絵の具皿を引攫っておいで。」

「穏かでない、穏かでない、攫うは乱暴だ、私が借りる。」

胡粉に筆洗を注いだのですが。