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しらふじ
白藤
宮本 百合子
「孝子の俤」1944(昭和19)年12月発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,810 字 · 16 页
私に下すったのはイタリーのカメオが金の台にとりつけられている、極くさっぱりとした品であった。柔かみのある灰色地に白で肖像のついているカメオを、装飾のない金の座で単純にとめてある。其は、母が哀慕していた謙吉さんという人が、アメリカ土産にお孝さんにあげたものだったそうだ。妹の長女である私は小さいとき、謙吉さんから養女にもらわれかかったことがあったという話も、いつか夫人につたわって、その指環をいただくことにもなったと思われる。七つ位の時、父から貰ったオパールの三つついた指環と、この指環と、二つが、きょう私のもつ指環のすべてとなっている。
夫人と私との間に、女同士らしい話がとり交わされるようになり、私に対してもっていて下さる関心の並々でないねうちも知ったのは、更にそれから数年経って、昭和七八年頃からのことであった。
昭和七年に、私が結婚して本郷の動坂町に家をもった。そのとき、夫人は大変よろこんで、実に美事な白藤の大鉢を祝って下すった。
房々と白い花房を垂れ、日向でほのかに匂う三月の白藤の花の姿は、その後間もなく時代的な波瀾の裡におかれた私たち夫婦の生活の首途に、今も清々として薫っている。