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しろへびのし

白蛇の死

海野 十三

「新青年」博文館、1929(昭和4)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,881 字 · 24 页

青空文庫

さっと茶呑み茶碗が飛んで壁に砕けた。途端に血相を変えた二人が、両方から一緒に飛びかかって、――が、其の場は仏の手前もあるからと、居合せた者が仲へ入ってやっと引分けている内に、丁度張込んでいた刑事がどかどかと踏込んで来た。そして関係者一同はすぐに拘引されてしまった。

しかし二時間ほどすると、エレキの喜多公だけを残して、他の一同は警察から帰されることになった。残された喜多公はお由の死んだ夜の行動について、何んと思ったか一言も口を利か無かったのだ。その時の吉蔵の供述はこうである。

「あっしは十時に店を閉めて、お由が留守だから久し振りで玉の井へ行って見る気になりました。今戸から橋場をぬけて白鬚橋を渡ったんです。けれど何うも気がすすまないんで、一通りひやかしてしまうと、二時頃には家へ帰って寝てしまいました。その翌朝、何んの気なしに聞いていると、乾分の一人が昨夜喜多を玉の井で見かけたって噂を小耳にはさんだんで、お由が殺されていると言う報せを聞いたのは、それから間も無くでございました」

では、何故喜多公はその夜の行動を明らかに説明しなかったか? 土岐技手が其の夜国太郎に漏した言葉では、喜多公こと田中技手補は確にその頃は変電所に勤務中ではなかったのか?