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しろが
白蛾
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,700 字 · 22 页
崖下の道路の木蔭に、誰か一人の通行人が立ち止ったのをきっかけに、次第に見物人がふえました。岸本省平もその中にいました。
彼のそばに、いつやって来たのか、彼女が立っていました。じっと立ったまま、崖上の作業を眺めていました。作業は白日の中の幻影のようでした。鉄骨の頂上に登ってる男が槌を振う度に、しばらく間を置いて音響が聞こえてきました。突然、男の姿が消えて、大きな塊りが鉄骨からなだれ落ちました。濛々たる土煙があがりました。その土煙が薄らいでゆくと、細い鉄骨だけが残り、そこに男の姿がまた現われて、鉄骨の上を綱渡りをはじめました……。流れ雲が影を落して過ぎました。
彼女は岸本にぴったり身を寄せていました。
「何をしているのでしょう。」
張りのある低い声でした。
「あれを壊すつもりでしょうが……あんなことでは……。」
言いかけて岸本は、今の場合、その答えの間抜けさを感じました。
「まるで、奇術の練習みたいですね。」
彼女は返事をせず、ちょっと首を傾げてから、突然、彼の方にくるりと向き直って、その顔をじっと眺めました。左の眼が少し持ちあがって細くなり、垂れぎみの下唇がそのまま引きしまり、その全体の表情が、微笑めいて見えました。