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はっけっきゅう

白血球

豊島 与志雄

「良婦の友」1921(大正10)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,538 字 · 24 页

青空文庫

だけど……。」

「奥さま!」と襖の向うから声がして、女中の清が顔を出したので、秋子は俄に恐い眼付をして見せた。綾子は何のことだか分らずに、きょとんとした顔で口を噤んだ。

秋子は尋ねられた用事を清に答えておいて、それから暫くして、真顔で向き直ってきた。

「そんな話を誰にもしてはいけませんよ。………そして、何か変なことはないかと人に聞かれたら、何にもないと答えるんですよ。」

「なぜ?」

「なぜって、もしおかしな評判でもたってごらんなさい……。」

それがどうしていけないかをはっきり云い現わせなくて、彼女は中途で言葉を切った。

「だって、西洋の御伽噺にあるような、面白いお化なら出たって構わないわ。」

口を尖らし眼をくるりとさしてる綾子の顔を見て、秋子も自然と笑みを浮べた。

けれど……。そういう噂があるとすれば、うっかりしても居られなかった。

二階が二室に階下が三室、便利に出来てる上に、日当りも相当によく、木口は粗末だが新らしく、家賃も案外安いので、近頃のめっけ物だといってすぐに越して来たのだった。が、玄関からすぐに階段、右手が八畳の座敷、それと反対に、左手の台所へ通ずる廊下側の、四畳半の女中部屋だけが、何だか薄暗くて陰気だった。