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しらがこぞう
白髪小僧
杉山 萠円
「白髪小僧」誠文堂、1922(大正11)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,770 字 · 194 页
姫は折角こんな有り難い事に出くわしながら、指一本指す事も出来ず、持ち主の来るのを待っていなくてはならぬのが、自烈度くて堪らなかった。早く持ち主が来てくれればいい。そうして自分にこの書物を貸してくれればいいと、足摺りをして立っていた。けれどもどういうものか、持ち主は愚か人間らしいものは一人も遣って来ないで、その代りに空から銀杏の葉が黄金の雪のようにチラチラと降って来て、書物のまわりに次第次第に高く積りはじめた。そうしてその黒い表紙がだんだんと見えなくなって、もうあと一二枚落ちるとすっかり銀杏の葉で隠れてしまいそうになると、最前から我慢の出来るだけ我慢をしていた姫は、もう堪らなくなって、我れ知らず傍に走り寄って、銀杏の葉を掻き除けて書物を拾い上げて、表紙を一枚夢中でめくって見た。
すると姫は又もやそこに夢ではないかと思う程不思議なものを見つけた。その初めの処にはっきりとした文字で『白髪小僧と美留女姫』という言葉が、チャンと二行に並んで書いてあったのである。姫は白髪小僧の事は兼々お附の女中から委しく聞いて知っていたが、今目の前に自分の名前と一緒にチャンと並べて書いてあるのを見ると、どうしても誰かの悪戯としか思われなかった。