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しらがこぞう

白髪小僧

杉山 萠円

「白髪小僧」誠文堂、1922(大正11)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,770 字 · 194 页

青空文庫

昔ながらの世の不思議、見たか聞いたかわかったか。

藍丸国のその中で、南の国に湖の、

数ある中で名も高い、多留美と呼ばるる湖は、

お年寄られた父様と、妾が魚を捕るところ。

翡翠の波を潜っては、金銀の魚を追いまわし、

瑠璃の深淵に沈んでは、真珠の貝を探り取る。

捕って尽きせぬ魚の数、拾うて尽きぬ貝の数。

扨は楽しい明け暮れに、小さい船と小さい帆を、

風と波とに送られて、歌うて尽きぬ海の歌。

けれども妾は昨夜から、この身の上の幸福は、

只これ切りのものなのか、それとももっとこの世には、

楽しい事があるのかと、疑わしくてなりませぬ。

今朝明け方に見た夢の、扨も不思議さ面白さ。

漁師であった父様が、美留楼公爵様となり、

おわかれ申した母様と、兄様姉様お揃いで、

十幾年のその間、楽しく暮したものがたり。

銀杏の文字のお話しの、惜しいところであと絶えて、

石神様のお話しは、わが身の上の事となり、

白髪小僧と青眼玉、それに妾と三人で、

追いつ追われつ行く末は、真暗闇の森の中。

扨眼が覚めて気が付けば、この身は矢張旧のまま。

十幾年の栄燿をば、只片時の夢に見た、