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ゆりのはな

百合の花

小川 未明

「趣味」1906(明治39)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,179 字 · 9 页

青空文庫

蒼々として涼しい風の吹くたびに、さわさわと桑の葉が鳴って、胸を驚かしましたけれど、誰も来る気遣いはありませんから、日蔭の草の上にねころんでいました。

紫色に熟した桑の実が鈴生に生っていましたから、手を伸ばしてはそれを取って食べますと、ちょうど甘露のような味がします。遠くの方で、聞くともなしに、水のちょろちょろ湧き出る音がして、耳を傾けていると、だんだん眠うなって来ますので、太郎は不審に思って、この辺に清水の湧く所があるのかしらんと、その水音のする方へ歩いて行きました。

すると桑畑を抜け出て、程なく行きますと野中の大きな栗の樹の下にそれはそれは水晶のように綺麗な清水が湧き出ているのであります。太郎は独楽を懐に持ったまま、佇んでしばらくその中に見とれていました。ちょうどそこへ足音がして、後方から可愛らしい下髪の花ちゃんが嬉しそうに微笑みながら来たのです。太郎はびっくりして、いつも自分と仲の好い花ちゃんのことですから、早速声をかけました。

「お花ちゃん好く来てお呉れだった。僕は一人で寂しかったよ。」

「太郎さんはいつここへ来たの。」

「今少し前に。」

「おお、美しい清水だことね。