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ひゃくしょうやのすけのはなし
百姓弥之助の話
中里 介山
01 第一冊 植民地の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,621 字 · 99 页
の裏をめぐって戻って来たが雄の方はやっとなげしまで降りてそこでうろうろしながらしきりに哀泣をつづけて居る、よってようやく取りおろしてやったが、覿面なものでその夜はさしもに荒れた鼠がガタとも云わない。実に餅屋は餅屋である。我々大の男が如何に猛威をふるって怒罵叱責してもその威力はこの仔猫が一分間の悲鳴哀泣に及ばない、ものには各々天分があるものだと云う事がつくづく思わせられる、それから以後、別々に母屋と寮との間に毎晩はなして寝かせて、鼠族鎮台の役を勤めさせることにした。
斯くてある中、一方に於ていよいよ野良猫の元兇退治の時が来た。
或る寒い晩のこと、この野良猫が書庫に侵入している処を、それと知らずに弥之助が出入口を閉めきってしまった。退路を断たれた野良猫は周章狼狽逃げまわる、よし心得たりと弥之助は徐ろにそれをとっつかまえる手段を講じ、それから笊を楯にステッキを獲物にこの野良猫を相手に大格闘が始まるのである。相手は年功を経て野獣化したる家畜が絶体絶命の死物狂い、書庫と廊下と応接の間と寝室と食堂を追いつ換わしつ、その猛烈さ加減は確かに岩見重太郎の狒々退治以上の活劇であったが、さしもの猛獣も運の尽き、とうとう書斎の障子の細目の桟を半分くぐったが、後半が出ない、その後足を弥之助はむずと捕えたが、さて縛るべき何物も有り