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ひゃくしょうやのすけのはなし

百姓弥之助の話

中里 介山

01 第一冊 植民地の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,621 字 · 99 页

青空文庫

それから栄五郎ボッチというのがあった、これもしじゅう飲んだくれで、赤黒い長い顔をして頭には白髪がもじゃもじゃ生えてすっかり人を食った顔つきをして居た。これは豆腐と油揚を木の手桶へ入れて天びんにかけて売り歩いて居た、そうして売上げを持っては当時水車をして居た弥之助の処へ来て母の名を呼んで、

「花さん、破風を五合に白米を一升呉んな」

と云って風呂敷を出しては買って行った、これも酔っ払いではあるが為朝と違って穀物を食うのである。ここに破風と云うのは大麦の碾割のことである。つまり大麦の碾割が三角形になって居る、家々の破風の形によく似て居る、そこが栄五郎ボッチの形容新造語であるらしい。

亀先生は生えぬきの百姓の子で、どちらから云っても学問の系統などは無いのであったが、どうしたはずみか学問に味を占めてそれから熱中してしまった、学問と云ったところでその時分は漢学であったが、先生は村で習えるだけの漢学は習い尽し村で読めるだけの本は借りて読みつくし、とうとう我慢が出来ず東京へ学問をしに出かけた。

こればっかりは本当に学問が好きで出かけたので、学問をしてサラリーに有り附こうとか出世しようとかの欲望は更に無かった。