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ひゃくしょうやのすけのはなし

百姓弥之助の話

中里 介山

01 第一冊 植民地の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,621 字 · 99 页

青空文庫

そうして人力車を挽いたり、風呂炊きになったり様々の職業をやりながら二松学舎に通った。

その時分の事、書生が大勢集まってお茶を飲み餅菓子を盛んに食べて談論するのを見て、先生は書生の分際であんな餅菓子などをおごるのは僭越だ、おれはそんな贅沢なものは食わない、沢庵で結構だと云いながら沢庵を持って来させて、それをガリガリかじりながら同学の書生達と盛んに談じ込んだものであるが、席が終ってさあお茶菓子代の支払と云う段になって、書附を見ると亀先生の噛った沢庵が大物三本、餅菓子よりははるかに高価であったという。

そういう訳であるから折角学問はしても生活にはうとく、業成って村へ帰って来てしばらく村の学校にやとわれて教師をして居た事もある。その時分の小学教師は今のように資格がどうのこうのという事は無いから、亀先生は先生もすれば百姓もして居て、袴を取って学校から帰ると仕事着をつけて股引わらじで籠を背負い、鮑貝を杓子の様にこしらえたものを携えて、街道に落ちて居る馬糞拾いをして歩いたものだ。そこで或日の事、学校へ来ると生徒が、

「馬糞先生が来た」

と云った軽蔑の言葉を聞き込んで、亀先生は師弟の道がもうおしまいだと云って学校をやめてしまった。